西の果て 樺里ゆう
古今東西
西にあるのは死者の国
それはやっぱり
太陽の沈むところ だからだろうか
古代中国の神話に出てくる
死を司る女神 西王母は
西の果て 崑崙山に住むという
古代エジプトのお経にも
死者の国は西方にあり
太陽神は夜にそこを照らすと書かれている
翻って現在
世界は丸く
西の果てなどどこにもない
太陽は沈まない
自転する地球が向きを変えるから
いっとき 見えなくなるだけだ
だけど地表にへばりついて暮らしてきた私たちは
そんなこと知る由もなかった
ならば今 死者はどこへ?
天国も地獄も
死者の国も
人間の想像の中にしか
存在しないのだとしたら
西の果てと呼べる場所は もう
心の中にしか ないかもね
のこされた 人々の
地上にいると 夕日は沈んでいく
また夜が来る
でもあの薄明かりのむこう 遥か彼方に
かつて見送った存在がいて
そこは
今を生きる私たちの
胸の中へと続いている
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参考文献
村治笙子・片岸直美(2002)『図説 エジプトの『死者の書』』河出書房新社、新装版(2024)。