消えゆく声 ゆづは
母の折れ曲がった指先が
私の手を握り返すとき
その仄かな温もりは
古びた床に丸まった猫の背のように
じんわりと滲み広がる
「生涯現役」
それが母の口癖だった
かつて多くの人々を魅了した
懐かしいメロディー
その歌声は少しずつ掠れ
けれど今もなお
水面に落ちるひとしずくの光のように
私の胸の奥に染み込んでゆく
母がそっと手を洗う水音が
漣となって心を揺らし
その澄んだ静けさを
私は両手に掬い取り
このまま時が止まればいいと願う
母の笑う声には
どこか悲しみが潜んでいると
いつしか気づいていたけれど
私の中ではその笑顔が
遥かな大地へ深く根を張り
この繋がりだけが
私のすべてだった
私は知っている
もうすぐこの声が
私の空から消えてしまうことを
それでも──
母と私は いつまでも
この窓辺で
琥珀色の陽の差す
ひとときに