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スレッドNo.6588

焚き火  aristotles200

原始時代
洞窟に暮らす
父と母に鍛えられ
力は強く、獲物には困らない
常に、焚き木を絶やさない
力の象徴
生きるとは炎と等しい

妻と出会い、子が生まれた
父と母は弱り、火の番をしている
私は強い
強き獲物を打ち倒し
その肉を、骨を持ち帰る

洞窟を照らす焚き火の前で
家族を支える喜びを噛み締める

ある日、目覚めると
年老いた父と母が
焚き火の前で冷たくなっていた
大きくなった子と妻の三人で
土に埋めた

その日は
一日中、焚き火を見つめ続けた

私は強い
それでも髪は白く、筋肉は衰える
若者となった子と狩りに向かう
持てる知恵、経験を伝える
逞しき最愛の子よ

ある日、強敵の一本角の虎に
子は右腹を貫かれた
血まみれの息子を洞窟に連れ帰り
焚き火の前で見守る
苦しむ子
何もできない
ただ、炎を見ている

子が命を取り留めた
だが、もう動けない
問題ない、私は強い
狩りにて鹿や猪を打ち倒し、持ち帰る
妻と子に渡す
それでも
最近、身体が動かない
問題ない、私が二人を生かすのだ

ある日、因縁の一本角の虎に出会う
逃げようとしたが右腿を貫かれた
這って洞窟に戻る
心配そうに見守る妻と子
大丈夫だと、なんとか笑顔で返す

干した肉も尽きた
空腹
妻は野草を取りに出かける
その日は戻らない
翌日も

傷ついた私の為に
子は焚き火を絶やさない
這いながら、枯れ木と枯れ草を集め
炎を守り続ける

翌朝、子は焚き火の前で力尽きていた
まだ炎は残っている
消えるまで炎を見守り
やがて洞窟は暗闇に包まれた

子の亡骸を抱えて
二人、外に出る
父母を埋めた横に
指を血まみれにしながら穴を掘り
子を埋めた
そうして一人、暗闇の洞窟に戻る

子が、死ぬまで守った炎は消えている
過去の炎を思い返すように
かつての炎を見つめ続けた
もはや身体は冷たくなり感覚がない

夜なのに
洞窟の出口がいやに明るい
妻と子の声が聞こえる
なんて言おうか
考えている
最後に笑みを浮かべ
独り、暗闇の洞窟で力尽きた

炎の記憶
炎とともに甦り
煙とともに消えていく

編集・削除(編集済: 2025年12月09日 07:05)

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