海鮮パスタ 荒木章太郎
海鮮パスタを作っていたら
故郷の妹から電話がきた。
母が認知症になった、と。
妹のマシンガントークの向こうに
昔の母と
他人に変わった母とを
行き来しながら整理する。
ケンカしながら妹に頼り、
一人で生きる母の気配に耳を澄ませる。
妹を労い、電話を切った。
生きがい
死にがい
ムール貝
死骸の山に
生きがいの山
海鮮パスタが出来上がる。
食べながら
生と死のことを思う。
父なき空
母なる海はエーゲ海。
オリーブオイルの緑がひかり
窓を開ければ潮風が入り込む。
愛について考えてみる。
食べ終えて
母に電話をかけた。
白内障の手術で
目が見えるようになったという。
母は「妹にボケたと言われた。もう来なくていいと言ってやった」
—— 「一人で生きていかなあかんねん」
「この前作った携帯、使わんのやったら、
こんど一緒に解約しようや」
「そうして。頼むわ」
母を労い、電話を切った。
僕は潮風を頼りにして
母と妹を愛する。