戦争 荒木章太郎
悪気はないのだ
自分が見捨てられる前に
人を見捨ててしまうのだ
自分を守るために
専守防衛の癖がつくと
自分が傷つく前に
人を傷つけてしまう
——知らぬまに加害者になる——
悪気がないから、怖いのだ
「自分のため」が
いつしか「人のため」
そして「正義のため」へと育っていく
(津波とともに無力の波が押し寄せた記憶
絶望の瓦礫の前でひざまづいた被害者の記憶)
不条理への怒りが
正義を求める爽快な波
高揚の波が
また押し寄せてくる
良かれと思い
あきらめるように
人は、加害者になっていく
専守防衛の癖がつくと
知らぬまに——戦争になる