月夜の黒猫 ゆづは
欠けた月の銀の刃が
夜空に突き刺さり
雪は降らない
ただ静寂が降り積もり
路地を白く塗り潰す
僕は肺の底へ息を隠し
賑わう大通りを避け
足跡さえ残さぬよう
影の尻尾を引きずって歩く
曇ったガラスの向こう
灯りの洩れる窓の奥で
顔の見えぬ誰かが
声を弾ませ笑う
その響きの届かぬ場所へと
そっと耳を伏せて
今宵、眩い光の毒に
世界が酔いしれる夜
僕はその縁から滑り落ち
鈴も祈りも持たぬまま
ひそやかに 深く
聖なる闇を祝福する
やがて月が地を這い
背に影が戻る頃
祝われぬものたちが
影を重ねる通り道で
冷えた鉄と 人の匂いを嗅ぐ
凍えるヒゲを震わせ
音もなく身を沈め
朝が来るまで
闇の温もりに抱かれて
その柔らかな感触だけを
覚えている