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スレッドNo.6666

忘却の空へ  荒木章太郎

心の片隅に
追いやった記憶が
ガラガラと音を立て
零れ落ちていく
これまで出会った人たちが
鞄を引いて
旅立っていく

若いころ
浮浪雲のように生きたかった
行き先を決めず
「今、ここ」だけを
真実だと信じていた

慌ててはいけない
時が濃くなっているだけだ
関わりが
絞られてくるだけだ

いつか新しい星座となって
空に昇るためだ
そう言い聞かせ
僕は限られたものを
鞄に詰めて
空港へ向かった

(青年月日を手放せなかった
生まれた日付ではなく
夢を追いかけていた日々を)

フィクションを生きてきて
異世界に浸っていた
現実では
役割の仮面を集めていた
「今、ここ」だけが
存在の証だった
過去も未来も
忘却の彼方に
置いてきてしまった

出国審査に引っかかる
取り調べ室にいる
困っている
「覚えていない」と
答えないとこれまでが
嘘と処理されてしまう

未来を恐れていた
だから
見通しを立てずに生きてきた
現実を否認して
自由だと
呼んでいた

審査官は
書類から目を上げ
静かに言う
「人は
歴史の流れの中に
います」

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