眩しい 荒木章太郎
眩しすぎるイルミネーションの日々
夜空に広がっていた神話は
更新されないまま
静かに消去された
白夜仕様のベッドに
僕はうつ伏せに飛び込んだ
眠りは浅く闇に沈めない
魂が跳ねている
存在は軽量化されて
数値に変換された
比較可能な単位へと解体された
哲学を重石にして
沈もうとする
だが
深度は制限されている
そこは
無意識と呼ぶには
あまりに明るい
巨大な企業が空を覆い
名もなき群れが
互いを評価し
互いを是正し
互いの正しさを
黙って見張っている
監視カメラに守られていた
光は安全で清潔で善意だ
感情でさえ
最適化され
記録され
効率よく
流通してゆく
底は糠床になっていた
前世紀までの記憶は黄ばんだ鉄屑となり
意味も由来も失ったまま
絶望の縁で発酵し続けていた
現実と本能が混ざり
酸味とカビの匂いが立ちのぼる
実存と認識が溶け合い
涙と血の味が
言語化を拒んでいた
ここはこころ
だが
内面ですら完全には
照らしきれていない
魂は
肉体に宿るのではない
心に宿る――
どこかで
まだ信じている
心は宇宙
測定される前の
沈黙を抱え
光の届かない
あたたかな襞が
蠕動している
母親の手で糠床を
掻き回しているような動きだ
そこは魂の通り道
そこでは
管理も
評価も
まだ
息を潜めている
そして
名もなく
声もなく
それでも確かに
希望が胎動していた