渇望 Ema
静まった教室
冷え切った机の上
乾いたざら紙
はじまりの合図
紙が翻る音
鉛筆が走る音
迷いのない音たちを
乾いた空気が
呑み込んでいく
かちり
長針がふれる音
埋まらない空欄が
じとり
刺すような視線を放ち
問いの羅列は
冷ややかな空気に
同調していく
空白は
悪かのよう
ざら紙は渇望する
一つでも多くの
答えを欲する
添えた左手
乾いた手指に
僅かに残る水分を
渇いたざら紙が
さらっていく
頭に踏み止まっている
教科書と授業の断片を
ざら紙の余白に吐き出して
探っては消し
探っては消し
ざら紙は毛羽立ち
質感を変え
ついには黒鉛を
受けつけなくなる
揺らぎを知らない
分を刻む音
この空間で許された音に
ぬくみなんて
ひとかけらもない
うっすら滲んだ手汗をも
渇いたざら紙が
さらり
さらっていく
枯渇した私が
差し出せるものは
もう なにもない
それでも
脳が歯軋りをする
靄がかかった
何度も浚ったはずの文字に
手を伸ばそうと
足掻く
人けのない廊下を駆ける
おわりのチャイム
焦燥と安堵を
綯い交ぜにした響きが
素っ気ない壁に
染み込んで
呼吸を忘れていた教室が
ふっと息を吹き返した