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スレッドNo.6734

落ちる  荒木章太郎

僕はスタントマン
落下の王国に住む
落ちることが仕事だ
生きるために
死へ向かう衝動を使う

落ちる時は
気を失わないこと
夢をみないこと

堕天使に魅せられて
美しく堕ちる
不様に落ちる
陥るのではない
落ちる決断をするのだ

いつも落ちる際の鼓動に苛まれる
自暴自棄ではないと言い聞かせる
落ちることに向き合っているのか
いや
失うことを恐れていた

欲望で肥大した空っぽな自己に
多種多様なものを詰め込み
都合よく加工した
自分色に染まる作り話の王国
この国を滅ぼすのが僕だ
牙を内に向けるか
外に向けるかの違いだ

ああ
この自責的で他責的な怒り
その背景に身を隠す悲哀に
決して触れることができない

この命は地上に生まれ落ちて始まり
太陽が西の地平線に沈み終わる
この儚さを愛と欲望と肉体で包み込むと
天使の羽のような軽さで恋に落ちた
秋には白い羽は枯れ葉に変わり
冬の北風に吹かれて絶望へ落ちる

せめて周りの注目を集める
落ちるという行為に光を当てる
大きく揺れる吊り橋の上で
愛する二人に向かい
運命という蒸気機関車が迫り来る
映画の撮影で高架橋から飛び降りた僕は
右足を折ってこの病院に運ばれた

オレンジの収穫を手伝っていた少女が
知識の実を取ろうとして
木の上から落ちた
右腕の骨を折り
同じ病院に運ばれてきた

思春期の春の手前にいる君は
恐怖を好奇心に変えて
希望に満ち溢れていた
毎週日曜日の午後に
君は僕の病室のベッドに潜り込み
落下の王国の物語をせがむ

彼女の無邪気さに嫉妬する
僕は結末を悲劇にすることで報復する
冬に備えて成熟したとしても
運命の落とし穴に落ちて
真っ白な雪の空白に埋もれた話だ
孤独は氷柱となって
君の胸を傷つけてしまった

僕の語る落下の王国の話に
君は赤い血の涙を流した
悪意に開いた僕の口に
君の怒りが注ぎ込まれる
悲しみが注ぎ込まれた
僕も涙を流すが
それはまだ僕だけの痛みに過ぎない
君と僕の涙は混ざり合い
深い眠りへと堕ちたい欲望に打ち勝ち
同じ悲哀を分かち合うことができた
熱い涙を流し
言葉のない静寂へ
悲しみは
こんなにも暖かいのか

これまで落ちても生きながらえてきたのは
そばにいてくれる人がいて
耳を傾けてくれる人がいたからだ

怒りを生きる欲望の力に変えて
二人の悲しみを絶望から浮かび上がらせた
現実の物語に繋げることで
落下の王国は本当に滅びた
やがて僕らは回復して
それぞれの生活に戻った

物語を観る者の望みとなるために
僕は今日も落下するのだ

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