群衆 静間安夫
長い間
きみたちは
大いなる謎であった
宗教も哲学も
いかなる思想も
きみたちを
完全には把握できず
また
その体系に
組み込むこともできない
いかなる
理論をもってしても
きみたちの
動機と行動は
予測不可能であり
あらゆるイデオロギーが
きみたちに
裏切られてきた
あるときは
国家と政治の
痛ましい犠牲者にして
あるときは
変節の限りを尽くす
風見鶏
あるときは
圧政にあえぐ
無力で悲惨な民にして
あるときは
手段を選ばぬ
狡猾なマキャベリスト
危機の時代に
自分たちだけが
助かるために
隣人の苦難を見捨て
迫害に手を貸したにもかかわらず
それでいて、きみたちは
嵐が吹き過ぎるや否や
ごくあっさりと
おのれの行為を弁明する―
「いや、あのときは
仕方なかったんですよ…
だいたい
他にどういうやり方が
あったというんですか!?」
そうして
今度は
放埓で無慈悲な
裁判官と化して、
失墜した権力者と
その協力者に
仮借ない報復を実行する―
あたかも
自分たちだけは
無実であるかのように…
そのうえ
今や
民主主義という
武器を手にした
きみたちは
もはや
ひとつの謎というより、
凶々しくも
あからさまな権力なのだ
その証拠に
世界で指折りの
大国の指導者でさえ
移り気で気まぐれな
きみたちに
浮沈の鍵を
握られている
だからこそ
群衆よ、
解き放たれたきみたちは
定見なき
離合集散を繰り返す、
統御不能の
巨大な生命体として
終末の黙示録の
不吉な主役となるにふさわしい