儀式 TICO
グラスにゆっくりと注がれるスコッチを眺める。積み重なった氷が軽い音をたててほんの少し崩れる。残りの空白を埋めるように透き通った水が注がれ、グラスの向こう側にヴェールのようにほんのり色をつける。近くにあった箸を垂直に差し、一定の速さでかき混ぜる。氷とグラスの内壁のぶつかり合う音が耳に心地よく、グラスの向こうの何かがぼんやりとした私を見透かしていた。徐々に結露を帯びるさまは繊細で美しく、生きた命を見るようだった。テレビを消して、グラスをかき混ぜ続けた。慣れてしまえば感動も薄らぎ、氷の角が失われていく。それを私ひとりが見届けている。私の中にあるそれも同じように、乾いた音に紛れながら小さく溶けていけばいい。溶けたところで消えはしない、そうくすんだ壁が笑った。そっとグラスの縁に口をつけ、冷たさを確かめるように含む。目の前の壁がさっきより少しだけ遠く、柔らかくなった気がした。薄茶のヴェールが私を取り込み、わずかに力点を変える。氷が小さく揺れていることに気づいた瞬間、グラスの底が私を覗き込んだ。私だけが透明なままだった。グラスの正円が歪んでいる。滑らかに光を反射する氷の表層をじっと見つめた。滑り落ちた光は部屋の片づけを始める。私の中のそれをすべて託してもう一度ゆっくりとかき混ぜる。氷が形を保てなくなる頃、粗くなった結露と共に滴るのだろう。テーブルの端では使い古した台拭きが最後に残った軌跡に向けて待機している。