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スレッドNo.6757

あたたかい水玉 トキ・ケッコウ

猫が死んで
おいおいおいおい泣いていたら
水玉が目の前に立っていた
「おい」
その水玉は
声のない言葉で言った
「おまえ」
水玉が目の前に
クローズアップしてきた
「おれの涙?」
しゃっくりが止まらなく
つっかえつっかえそれでも言うと
「馬鹿だなぁ」
チャプチャプ音を立て
水玉はいつの間にか
大きくて広い水面になり
眼のまえでさざめいた
「ああ」
「うん」
「そう」
水玉が掛け合ってきた
また涙がぽたぽた溢れ
それが音は立てずに
さざめきの水面に吸い込まれた
すると
「いや」
「なに」
「けど」
今度はおれが掛け合っていた
声が意味だけ涙の粒に溶け
それがボタボタと音を立て
さざめきの水面へと落っこちた

しばらくして
涙がようやく引っ込みはじめると
「おい」
ふたたび水玉が立っていた
ただし死んだ猫が中にいた
ニャアアアア
聞こえない声で猫は鳴いた
「ほら」
「なに」
「みろ」
水玉は逆立ちをしていた
ああだから
猫が立っていられるのか
だいぶ理屈っぽいなと
でもそうやって
気をそらしてくれているとわかって
「つらい」
「ほんと」
「ほんと」
水玉が苦笑いして相槌を打った
猫がニャアアアアと鳴いた

しばらくして
完全に涙が乾いた

「じゃあな」
水玉がくるりと振り返った
見れば離れていた先を歩いて
その背中がわけもなく汚れていた
それで透明には見えなかったが
でも全体的にキラキラとかがやいて
震えるようにして
どこかを
目指しているようで

水玉が消えたあと
今度はあたたかい湿り気が
薄い膜で
ていねいに

おれの瞳を
包みだした

編集・削除(編集済: 2026年01月16日 00:48)

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