MENU
942,434

スレッドNo.677

中秋葬歌  秋庭燈火

踏み出す度につきんと痛んだ
十五歳の月の下、十九歳の横顔を盗み見る
蝉の夏を惜しむ声がする

昔、パパに「月が追いかけてくる」と言ったの
そんなどうでもいい話をした
おろしたての靴の中でそっと指を折る

南東の月を探してくるくる回る
蝉の叫びは途切れがちになっている
鈴虫が蝉の首を絞めているみたいだ

揺れるその手を握ろうか迷う
手を伸ばして、やっぱりやめた
宙ぶらりんになった手で月を指さした

来年の月も綺麗だろうか
見上げる隣にあなたはいるだろうか
いなくてもいいと強がる

来年も、とあなたは言わない
だから私も言わないの
息絶えた蝉がどこかで墜落した

何度も横顔を見るわけも
靴擦れして痛いことも
手を握ろうとしたことも
全部、ぜんぶ、私の中で蝉たちと眠りについた

来年、隣にあなたはいないかもしれない
それでも月に祈りはしない
次は一人でも追いかけて見上げるから
だから待っていなさい、綺麗なままで

編集・削除(編集済: 2022年09月16日 22:12)

ロケットBBS

Page Top