中秋葬歌 秋庭燈火
踏み出す度につきんと痛んだ
十五歳の月の下、十九歳の横顔を盗み見る
蝉の夏を惜しむ声がする
昔、パパに「月が追いかけてくる」と言ったの
そんなどうでもいい話をした
おろしたての靴の中でそっと指を折る
南東の月を探してくるくる回る
蝉の叫びは途切れがちになっている
鈴虫が蝉の首を絞めているみたいだ
揺れるその手を握ろうか迷う
手を伸ばして、やっぱりやめた
宙ぶらりんになった手で月を指さした
来年の月も綺麗だろうか
見上げる隣にあなたはいるだろうか
いなくてもいいと強がる
来年も、とあなたは言わない
だから私も言わないの
息絶えた蝉がどこかで墜落した
何度も横顔を見るわけも
靴擦れして痛いことも
手を握ろうとしたことも
全部、ぜんぶ、私の中で蝉たちと眠りについた
来年、隣にあなたはいないかもしれない
それでも月に祈りはしない
次は一人でも追いかけて見上げるから
だから待っていなさい、綺麗なままで