隣人 aristotles200
戦は終わり
大地を亡骸が覆う
太陽は西へと沈む
世界は、夕暮れが支配する
弓矢に射貫かれた
槍で突き殺された
刀で切り刻まれた、無惨な死骸たち
今は、動く者は誰もいない
烏の大群が死骸を啄み
飽食の鳴き声をあげる
遺骸は、何も語らず腐っていく
腐臭が満ちる
夜は更け
狼も現れ、死骸を貪り続ける
人間の、本当の姿が広がっている
業
そのままの世界
白い、鬼火が
あちこちから湧き上がる
戦場を
仄かに照らす
風は、強く吹きすさび
鬼火は弧を描きだす
数千の白い光は
宙を巡り
一体の遺骸に吸い込まれていく
最後の鬼火が消えたとき
それは、目を覚ました
人の形はしているが、人ではない
赤眼を光らせ
禍々しき死臭を放つ
哀れな化け物
憎しみと、怒りを凝縮させて
形となった…
亡霊とも
否、怨念が実在せしもの
化け始める
農夫の姿、形に変わる
沈黙
表情を消した顔に
一瞬、中身が溢れ出る
目は赤く光り、口は大きく裂けた
✳
農夫の姿をしたそれは
戦場を去り
街道に向かう
それの名は、禍い
戦場の
無数の遺骸
その思いを背負いし怨念
亡骸と
同じ数の人を
喰らうと
そのあとは…
わからない
怨念は解けるのかも知れない
或いは
今、貴方の隣人であるかも知れない
人の良い微笑みを浮かべ
何気ない会話を交わしている
人間を、憎み喰らうものがいる
世界は、夕暮れが支配する