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スレッドNo.6783

入道雲と花の日記  佐々木礫

9/30 (金)
朝の通学路で、俺以外に人が一人歩いていた。その人は黒い鞄を背負っていた。何のことはない、赤の他人だ。
何がどう良いのか分からないが、日記を書くと良いらしいので、書いている。そのために、日頃の出来事を書けないか考えることが増えた。
チャリンチャリンと音がした。まあ避けるほど歩道は狭くないので、そのまま呑気に歩いていた。俺の真横を通り過ぎたのは、同級生の女子だった。長い横髪が顔を隠していた。
彼女は、坂の上の大きな入道雲に向かって、自転車で駆け上がっていく。
もうすぐ夏が終わる。しつこい汗はさらりと風がさらい取り、何か多少のことではイライラしない温暖な気候が、もうすぐ訪れようとしている。まだ少し暑いけれど。
教室へ行くと、自転車の彼女がいた。
何だかキザかと思ったが、「もう夏も終わりだねぇ」と俺は言った。
「ん?」
と彼女は振り向いて、ひとつ間を置いて、「そうだねぇ」と相槌を打つ。
ふいと窓の外へと目をやった、彼女の仕草は秋の柔らかく冷たい風みたいだ。来週あたり、映画デートに誘おうと思っていたけど、脈なしか。
恥ずかしいやら虚しいやらで、忙しい。
それにしても、入道雲と透きとおった花が、太陽の下で逢瀬をしているみたいな、あの景色は美しかった。
こんなふうに、別にどうでもいいけど、綺麗だなぁと思えることは、俺の人生であと何回だ。そう思うと、もっと探したくなってきた。
お調子者の中田に行かせるか、と思い、俺は言った。
「中田、二組の女子に、「今度遊ぼう」って声かけて来い!」
「え? 何で俺が」
「いいから、映画行こうとか言うんだよ。軽くでいいから」
「自分で行けよ」
「俺はこのクラスで正々堂々」
そう言いながら、彼女を盗み見る。今度は長い髪を机に垂らしながら、自分のノートに何か書いている。
「ふーん。元気だね。僕はどうでもいいからいいや」
「……」
そんな一日だった。

編集・削除(編集済: 2026年01月26日 10:00)

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