ことばの葉と歯の間には 荒木章太郎
ああ、生きるため
歯をくいしばっていたら
下の歯が小さく
丸まってしまった
「思想膿漏」で
隙間ができてしまった
ああ、生きるため
糧を得ようとしたら
権力の歯車になってしまった
歯車を回し続けても
取り込まれぬように
俺は歯を言葉に変えた
思想は鋭い刃となり
言葉で傷つけあい
腐っていく
言葉を守るために
寄りかかった壁は
俺が
殴り返すはずだった壁だ
その壁は
教訓じみた顔をして
そこにあった
子どものころ
歯をくいしばれと
教えたのは
父のような壁だ
高く
厚い壁なら
乗り越える
儀式にもなるが
今
俺が寄りかかっているのは
柔らかく
歯形だけが残る壁だ
歯車を
回し続けるしかないのか
言葉を失えば
俺は
歯車を止められるのか
それは
口を閉ざすことなのか
それとも
父なる声が
聞こえなくなることなのか
父は
歯を食いしばることを
やめなかった
俺は
前歯を二本
失ってしまった
二人とも物事を
うまく咀嚼できなかった
ことは確かだ
父の壁もない世界で
途方もない情報が
咀嚼されぬまま 分別もなく
腹の底へと流し込まれていく
物事の本質を
消化できぬまま
腐敗した
言葉の骨を拾う