野辺の枯れ花 人と庸
案内も必要とせず山に入る者を
かれらはいつも見送っていた
色々なものが過ぎ去ったあとに
残されたものだけが佇む季節
かれらは自身の花穂に
かつては光や風をいっぱいに湛えていたが
いくつかの種子を送りだしたあとは
その間隙に
わずかな空気が行き交うのみ
山の入り口から見下ろす砂防堰堤の
いまだ満たされたことのないその内側には
みわたすかぎり
みわたすかぎりの
枯れ穂の花束
なけなしの
しかし常に外側に向く矜持を束ねて
集うかれらの祝宴だ
川の音は上流に向かうにつれ
宴の静けさにかき消され
伝える言葉を忘れてしまった
きまぐれにはしる鎌刃の閃光に
かれらは右腕からゆるやかに麻痺してゆき
もはや 風に揺られることもない
いま 山に入ってゆく者がいる
その者は戻ってくるのか こないのか
戻ってこなければそれでよい
戻ってきたなら
腕いっぱいになるまで
枯れ花を束ねて贈ろう
精一杯たたかったとて
決して正義になりえない
それに気づいた群れの中の孤独な者に
無音の言祝ぎとともに