雪解けの栞 ゆづは
遠くで鳴る呼び声は
風のいたずらでしょうか
あの日
あなたが閉じたままの
扉の向こうで
銀色の針葉樹が
静かに影を伸ばしています
重い外套を脱ぎ捨てられないのは
その裏地に残る
消えない温もりを
閉じ込めているから
水平線が朱に染まる瞬間
あなたは誰の面影を
なぞっているのでしょう
空に浮かんで滲むのは
見知らぬ誰か
それとも 遠い記憶の底の誰か
真実の想いは
雪の底に沈めた
そう言って
静かに笑うあなたの横顔は
凍てつく月のように
私はただ一篇の詩を栞として
心の襞に挟んでゆきます
いつか 雪解けの水に流れればいい
ただ 明日の朝
あなたが新しい靴紐を結ぶ
その乾いた音だけを
私は信じていたいのです