メモ TICO
急に部屋中のものを
捨て始める
見境もなく
片っ端から捨てていく
デスクの引き出しを開けたところで
手が止まる
取り出した小さなメモ
消えた床に
君は落ちていった
メモを握りしめて
休日の繁華街を
かけ抜ける
しばらく近づかなかった
旧知の店
あがった息を整えて
重厚な木製の扉を引く
立ちこめる
コーヒーの香りに気圧されそうになる
控えめなドアベルに
重なるように
馴染みのある声
目が合って
しばらく黙したあと
小さく目蓋をふせて
視線を店内に向けた
手汗で湿ったメモを
上着のポケットにしまい
定位置だった窓際近くのカウンターに
ゆっくり
腰を預けた
椅子は買い替えられ
少しだけ高さが変わり
まだぎこちなく
視線の置所に惑う君を
黙って
受け止めている
控えめなBGMが
コーヒーの粒子の
合間を縫って
そっと
君の空間に
配置されはじめた
※「作り笑顔」連作ラストです