トルソー 上原有栖
ひとりの女生徒が
クロッキーしている
放課後の美術室で
6Bの鉛筆滑らせる
描く時間は十五分きっかり
相対したのは
石膏のトルソー
引き締まった躰の
硬いところ
柔らかいところ
見たままに写し取っていく
足下に散らばるのは
肉体美を掠め取った線描画
影の浮く筋の張りと
計算された骨の角度を
見つめて
何枚も何枚も生み落とした
「アポロンのベルト」
アラームが鳴る
手を止め立ち上がる
描いた紙を床に落とす
束ねた髪を解く
トルソーに近づく
ひとりだけの美術室
他に誰もいなくて幸運だった
白い脇腹に頬寄せると
ゾッとする温もりが
心の内に疼きを与える
「首から上がないから」
驚くほど大胆になれる
少女は微笑み
石膏像の左胸に
小さな
くちづけをした
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(解説)
アポロンのベルト:解剖学やフィットネスの文脈で、
腹斜筋の下部と腰骨の間にできるV字型のライン
(そけい溝)を指す。「アドニスのベルト」とも呼ばれ、
非常に低い体脂肪率と鍛えられた腹筋の象徴とされます。