電子化の帰り道 荒木章太郎
これまで積み上げてきた
専門書を電子化するために
朝の新宿西口を登る
老朽化した肉体の
立て替え工事が続いている
改善と改悪の階段を上って
地上に辿りつけば
通勤を急ぐ人達が交差点を行き交い
間違いを認めたらその価値を
失うかのように時を進めていた
人々が踏みしめるたびに
凝り固まる思考の下で
考察を待つ歴史を後目にして
電子化の店に入った
これまで積み重ねられた
体験は裁断されて
肉体を離れる思想
これで僕は実体を所有しない
全ての言葉はスマホに捧げた
これを誠実なもので包み
いつも身につけて祈るのだ
聖書は前世に置いてきた
この世界では聖霊は情報に
置き換えられる
夕暮れの頃は
ゴールデンに輝いていた街が
今では白昼に消え入る月に変わる
電光掲示板だけが光る
想い出横丁も電子化されて
固く口を閉ざしていた
回想に浸る魂に鞭打つ
健康な風が冷たく
酔うことを許さない
僕の内に神様がいた頃のほうが
汚れていた
もう温もりは人に求めないと
決意したとき
熱い涙が流れる
強い自我を神様に捧げると
人の想いが胸に宿る