大気圏 荒木章太郎
僕らは暗い宇宙へ放り出されたまま
互いに異なる世界を彷徨っていた
若い頃は自分を中心に
太陽や惑星を回していられた
精神力で遠心力を生み
行きたい場所へ行けた
しかし歳を重ねれば
傷つき 傷つけた歴史と
向き合わねばならない
行きたくもない場所へ
行かねばならない
やりたくもないことを
やらねばならない
細胞はあの頃の
傷ついた記憶のまま
凍りついて
二人はまだ震えている
僕らを傷つけたものを
告発するつもりはない
君を置き去りにした
その罪の連鎖が命綱になっている
君の裁きを受けたいわけでも
赦しを乞いたいわけでもない
ただ恐れが
怒りを閉じ込めていた
君は大気圏に突入して
燃え尽きようとしている
僕は君を抱きしめ
ここを通過しようとしている
「大丈夫だよ」
かつて果たせなかった
君を守る務め
「大丈夫だよ」
僕にもかけられた言葉
君の悲しみの闇の深さを思う
僕が震えているのは
祈ることしかできない
その弱さ
ああ 通過点が燃えている
君は消そうとし
僕は抱えたまま
委ねようとしている
君は軽くなり
僕は深くなった
ここで分かれるのだろう
それでも
僕は間に合ったのだろうか