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スレッドNo.6888

春を忍ばせて  ゆづは

午前五時
薄暗い廊下の床が
まだ寝息をたてている

ガレージのシャッターが上がり
ほどなくしてエンジン音が
角の向こうへ消えていく

町の小さなスーパーの片隅
あかぎれでかじかんだ手が
陳列棚にパンを並べる姿を
瞼の裏に思い描く

カサカサと擦れる
ビニールの音だけが
静まりかえった店内に
朝の鼓動を刻んでいるのだろう

かつて
私の指を握り返した
あの小さく柔らかな手のひら

いつの間に
こんなに逞しく
傷だらけになったのか

並べられたパンを
どこかの誰かが手に取り
穏やかな朝が
この町に また一つ灯っていく

傷ついた指先に
春の温もりが
そっと届きますように

エプロンのポケットに忍ばせた
花の香りのハンドクリーム

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