暴動の夜に 上原有栖
夜になって
家の外は騒がしくなった
群衆が
酒臭い息を吐きながら
大通りを練り歩いていく
手に持つのは
燃えあがる松明
錆びた農具を振り回したり
古びた猟銃を携える者もいる
年端もいかないそばかす顔の青年は
隊列の隅っこで
威勢よく木の棒を振り回していた
喧騒に息巻く父に連れられて
五歳年上の兄様は
お揃いの黒いバンダナを首に巻き
意気揚々と路上へ繰り出す
丸い瞳は
熱にうかされたように輝いていた
二人は嬉しそうに闇に消えていった
「馬鹿なことはおやめなさい」
母の忠告が耳に残っている
どうして男の人はみんな騒いでいるの
怪我をしたらどうするつもり
少女は寝室へと駆け上がる
どこからか野太い雄叫びが聞こえて
少女は思わず布団に潜り込んだ
『怖い』
震えを止めたくて
枕で
頭が隠れるように覆ってみる
伸ばした髪の毛が
ヒリついた空気で逆立った
石畳を靴が踏み締める音が
次第に遠くなっていく
みんな どこへ向かっているのだろう
みんな だれに向かっていくのだろう
少女には分からなかった
分からなかったから
いつも一緒に寝ている縫いぐるみに
訊ねてみる
「ねえ みんなは何がしたいのかしら」
ランプに照らされた相棒は
この時ばかりは口を閉ざしていた
大通りが静かになったと思ったら
旧市街の教会の鐘が鳴りだした
外を歩く野良犬の遠吠えが聞こえる
どこかの家で赤ん坊が泣いている
今日は夜になっても街が眠らない
『やっぱり怖い』
少女はまだ震えていた
外の様子が気になったから
窓を少し開いて覗いてみる
石畳の端に
焼け焦げた縫いぐるみが落ちていた
こちらを見つめる光の無い目と
見つめ合ったとき少女は思った
「この世界は醜いわ」