海猫 荒木章太郎
先住を想う
北千住に住んでいた
旅の始まりの場所
よそ者は
その土地に馴染めず
一定の距離を置く
先住を恐れる
侵攻して
傷つけるのではないか
よそ者が
居場所を作るには
その境界に
足を踏み入れるしかない
そうならぬよう
よそ者は
旅人になった
居心地のよい
場所を求め
夜の海を渡る
旅人は
カモメになった
悲しみの荒波を
越えるのが辛く
群れから脱落し
居心地の悪い森に
たどり着く
森に住む者にとって
暗い闇を抱えることは
日常のいとなみ
悲しみが
黒く身に染み
カモメは
カラスになった
猜疑心と好奇心で
光るものを求め
権威から
玉座を売りつけられ
白く塗られ
手懐けられ
カラスは
ハトになった
群れることで
人波に乗り
人並みに馴染む
森は街に変わり
世界は
より高く
より広く
開拓されていく
不安のリズムに
煽られ
白いハトは
安全と引き換えに
声を失い
海を恐れた
先住と移住は
大地を突き刺し
根を張り
様々な生き様を
染み込ませ
張り巡らせる
地下深くで
繋がりを求め
折り合いをつける
たとえ
大地に刻まれる
鋭利な亀裂が
昨日までの隣人を
敵として
切り離そうとしても
街が
森の木を斬り倒したあと
切り株だけが残る
年輪には
目もくれず
新しく切り替え
帰る場所を作る
買えるものを求め
空を飛ぶことばかり
考えている
人は飛べないのに
翼を求め
鳥になろうとする
俺は
旅人のままで
いいのか
日は
暮れ始めている
俺の眼は
日常を
流しているだけ
涙は
枯れ果てた
旅人のままでは
寂しい
俺は
滅ぼす側ではなく
滅びる側を
引き受ける
決意は
皮膚を突き刺し
胸の奥に
根を張り
俺の内側に
空を作る
旅人をやめて
この場所で
集うことにする
悲しみを迎え入れ
送り出す役目を担う
鳩は
海猫になり
境界に
すみつく
争いの潮を
風の中で
見つめながら
北千住の空