MENU
1,907,098

スレッドNo.6972

ふたりの音色  ゆづは

老後の趣味だよと
はにかんだ顔で
あなたは突然 
応接間のピアノに向かった

子どもたちが巣立って
静かになった家に
ぎこちない音が
ひとつ またひとつ
零れ落ちてゆく

自己流で
鍵盤を探るその背中
長年スーツを着てきた肩が
今は少し丸い

間違いだらけの音
ちっともかみ合わない
右と左の指は 
あちこちへ跳ねる
不協和音さえ
まったく気にしない
リズム感なんて 
あったものじゃない

ぶつかり合う響きは
まるで
私たちそのもの
すれ違って 言い合って
それでも
同じ食卓を囲んだ夜

せっかちに先を急ぐ私と
どこまでも 
のんびり歩くあなた

走ったり
立ち止まったり
揃わない歩幅で 
よくここまで
来られたものだと思う

食べ物の好みも
映画のジャンルも
ばらばらで
同じものに触れても
感じ方や意見は真逆

それでも
たどたどしく紡がれる
その旋律に
私は思わず
洗い物の手を止める

ああ
これ──
私の好きな曲

一番大切な 
心の音色だけは
出会ったあの日から
ずっと変わらなかったのだと
今さら気づく

凸凹なふたりの 
不器用なアンサンブル

急がなくていいよ
ゆっくり
隣で聴かせて

途切れそうな音を
ひとつずつ
繋ぎ合わせてゆく
ふたりのメロディー

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top