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スレッドNo.6973

星のアリア  松本福広

広大な宇宙空間の中
コールドスリープの中に眠る一人の紳士
彼は治せぬ病を患っていた。
治療を未来にかけるべく
数百年の眠りにつくことになった。

彼は人生に大きな失敗などなく
家族や周囲に恵まれ
輝かしい未来を夢見る有望な紳士だった。
たった一つの不幸は
彼自身が周囲の心遣いに気づかなかったこと。
そんな彼が病床に伏せることとなった。

彼は自らの惑星が滅びたことを知らない。
無窮の宇宙を漂う箱の中で
命を凍らせたまま
音のない夢を見ている。
延々と続く夢の続き……結末はなくても。

当時の技術でも発見できなかった病原菌は
宇宙空間と時間経過で殺菌されていた。
来たるべき時が来て、生命維持機能が切れた時
彼に待つものは?
永遠というマイナスの数字に一を足し続ければ
いずれはゼロに収束する。

塵を寄せ集めたような未来の到着点は
棺の中の星屑。
十字架も、鎮魂歌もないまま
膨らみ続ける孤独の中で
一輪の花を信じた末に
限りない沈黙を海に落とす。

彼は今まで知ることのなかった感覚を
無自覚のまま
マリンスノウになる。

虚無に沈みゆく星の歌に
一匙のコーヒーシュガーのような流星群
── 多次元の破れ目が入る ──

彼の近くにいたのに
見過ごされていた
純度の高い遊星。
捨てたはずのピースは
静かで残酷な絵を塗り替える
愛の一行詩だ。

孤独で終わるピリオドなんて
打たせない──
コールドスリープに乗ろうとする
彼の手をつかまえる可能性が一粒。

音を吸い込むブラックホール
静寂の闇を破り
ホワイトホールから
G線上のアリア
遊星が描いたひとすじの軌跡

永遠に続く銀河に
消えていく星に
繋ぎ止めた形のまま
銀河の深海に落ちていく
ふたつ星。

星が織りなすデュオに
タクトが下りる。
終曲までに響くのは
ヴァイオリンの音だけ──

編集・削除(編集済: 2026年03月20日 02:00)

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