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スレッドNo.7038

nothing  上原有栖

あなたが透明になった世界では
どうしても喉が渇いてしまう
まとわりつく空気は冷ややかで
わたしの水分は
否が応にも奪われていく

周りを見渡すと
先を歩く人が
普段より俯きがちに見えて
電柱に留まる烏の鳴き声は
喧しく耳障りに思えた

知らされなかった悲しみと
気が付かなかった哀しみの
狭間に置かれた唇は
しろくかたくひび割れて
"Lip"creamを塗りながら「ごめんね」
漏れ出た呟きが
滲んだあなたに反響する

いつのまにか左胸には
ドーナツの穴みたいな
何も無い空間が生まれて
そこにはあなたの影だけが
まだ消えないで腰掛けている

鞄にしまってある
ラベルを剥がしたボトル
中身は名前も無い水
喉が渇くたびに幾度も流し込んだ

(「nothing……nothing……nothing.」)
あれはいつだったか堤防の端で━━━━━ 
いっとう高いところ歩きながら
呟くように歌っていたあなた

あの日を想い
わたしも口ずさんでみた
『noth……nothin……nothing……』
同じはずのメロディが
似ても似つかなくて苦笑する

棺の中に入れられなかった手紙
別れの言葉と末尾の"R.I.P."を書きつけたら
海に向けて
紙飛行機にして放り投げたよ

まだ喉が渇くの
あなたを
無くして
亡くして
失くしたから

一筋のなみだが頬を伝ったとき
澄んだ空を一羽の鴎が飛んでいく
どこまでも どこまでも
わたしの虚しさを
遠い所へ連れ去っていくように

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