街の隅っこに、よくある喫茶店で 松本福広
仕事が早上がりだったので
雑居ビルの一角に立ち寄る。
街と、オーナーの暮らしの
においが混ざった
無個性な喫茶店。
今日のおすすめはナポリタン。
外は小雨が降っている。
雨は一滴毎に町を灰色に濡らす。
客は私と一組の女性の二人組
女性陣はオーナーと談笑に花を咲かせている。
私はコーヒーだけを注文する。
オリジナルブレンドというコーヒー
規格内に、大量生産された
クセのない、飲みやすい味。
枠内に収まるように──
世の中という目に見えないものを
動かす機械の
どこに配置されたかを見失ったから
遠い親戚のような
一ヶ所のパーツにしかなれなかった。
機械の運動に振り回されないよう
しがみつく。
コーヒーに角砂糖を一つだけ。
これが私らしさ。
カウンター脇のマガジンラックから
一冊の雑誌を手に取る。
家庭の役割分担における
男女の意見の違いが特集に組まれていた。
「夫」 ・ 「妻」 ・ 「子ども」
簡単な記号で構成されて
「家族」で接続されているようだ。
私はいい夫なのだろうか。
いい父親なのだろうか。
誰かにそう言われたいのか。
家に帰れば、妻や子どもが帰ってくる前に
夕食や、軽い掃除をしておく。
今日は何を作ろう?
自分の食べたい物でいいか。
ひと呼吸……深くため息。
大丈夫。誰にも何も言われることはない。
一杯のコーヒー。
そんな時も必要だ。
ゆっくりとした雨音を聴き入る。