反面教師 上原有栖
流れる川
柳の下に
どじょうはもう居ない
一匹捕まえて喜んでいた作家は
まずい酒に溺れて
首が回らなくなったのか
一昨日とうとう夜逃げした
郵便受けからはみ出していたのは
督促状の束
***
━━━━━「俺みたいに、なるなよ」━━━━━
これが、作家の口癖だった
寝癖がついた髪は
いつも明後日の方向に跳ねていて
目の端には目脂(めやに)が付いている
顔くらい洗えばいいのにと思っていた
***
部屋はからっぽだった
大家が片付けたのかもしれない
室内は乾いていて殺風景で
寒かった
一昨日まで人が暮らしていたはずなのに
ベランダには水槽がひとつあった
捕まえたどじょうを飼っていたのか
髭をヒクつかせ泳ぐ
一人ぼっちの魚を想った
***
━━━━━「お前は、うなぎになれ」━━━━━
作家にそう言われたことがある
あなたに言われなくとも
言われなくとも、さ
柳の下に
二匹目のどじょうは居ない
十八回目の春がやってくるまでもう少し
僕の旅立ちは、近い