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スレッドNo.709

武家・古記録―「吾妻鏡」のために―  三浦志郎  9/23

「このドラマって、誰も幸せになってない気がする」

私の先輩がそう言った。大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」についてである。
全く同感であり、正に至言である。当時の古記録を想い、冒頭の言葉を
考えてみた。たとえば、こんな風に―。

*               *               *

武家の記録は
勝者の 覇者のそれで
“裏ありき?”は簡略に
あるいは欠落させもした
謎も多い
くだんの吾妻鏡

記録はドラマではなく
主人公はいない
予定調和もなく
誰かの幸せとは遠い


他者から疑惑や謀略を受け
御所で突然首を掻かれ
幽閉先で惨殺され
軍勢激突の末 誅殺された
此処は鎌倉
生死の境に府だけが栄えた

各々の幸福を目指し
しのぎを削り殺戮し
黒白をつける
果てない武家宿命の修羅

その醜悪は
逆に幸福のほうから
全ての人々を見放したかのようだった
最後の覇者さえ例外ではなく
後の歴史が証明している

一生の命題を
死と名の引き換えとすれば
「名こそ惜しけれ」
討死は武家究極の綺羅


この暗い記憶に
わずかに救いがあるとすれば
幕府の要人でも
ある年を最後に
記録上 消息を絶った人々がいる

消え入るように
歴史から去ったのは
おそらく
病という穏やかさ
病死がかえって幸せ
天命に従順に
自己を終わらせた人々こそ
他者から傷つけられずに
この時代の
せめてもの幸福かもしれない

人生五十年という歳月を
あるいは それ以上を
全うしたか?
―しただろう


このように人々は
記録の中を往来した

闘死した末に名を得たか
人知れず死んで行ったか
どちらが幸せであったかは
わからない

思いつくまま
彼らの名を挙げてみても
ただ虚しいだけだ

今となっては
誰も幸せにはならなかった―と



                           

                          * 吾妻鏡……鎌倉時代の一級史料。
                            北条執権礼讃の傾向あり。
                            源頼朝の死を含む三年間は空白。
                            記述は時代後期で終わっている。  

編集・削除(編集済: 2022年09月23日 06:13)

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