山酔い 上原有栖
細い月が雲に隠れ
闇夜の帳が降りてきた
西向こうの山がざわついている
寒くて震えているのだろうか
それとも嬉しさに咽んでいるのか
ゆさゆさと動く枝に
黒い木々が騒めく
誰かが笑っているみたいだ
空耳が風に乗って聞こえる
うふふ、あはは
くすくす、けらけら
今は独りになってはいけない
ひとところに集まって
仲間で群れなさい
焚き火をもっと大きくして
高らかに唄いなさい
山の民の歌を
焔が重なって揺れる
影がいくつか多いような気がする
爆ぜる薪から
目を逸らしてはいけない
紅く染まった顔たちに
見知らぬ者がいても
口にしてはいけない
山の奥からやってきた
寂しがりは
温もりに引き寄せられるのだ
ひと時の宴に酔いたいらしい
悪いモノではない
よいよい、と
饗すだけでよいのだ
月が夜天を過ぎれば
いつの間にかいなくなる
その頃には皆酔いつぶれて
眠っているだろうよ
さあ酒だ酒を持ってこい
喉を鳴らして声を響かせよう
宴はまだ終わらぬよ
赫々とした焚き火を囲んで
皆で今宵は酔い笑え