白い名札 松本福広
まっさらな布がある。
一本一本の糸が始まりの色で
紡がれている。
始まりには二つ意味があるだろう。
スタート。あるいは、リセット。
令和と元号が変わった翌年の2020年。
雑然と作られた街中に、
織り込まれていた人々が
ほつれて、まばらになるように……
白は意味を変えていく。
赤も、黒も
白に染まるような
街並みを滅菌で望むような白が漂う。
不織布で覆われていく過程で
隔離や排除の声が染み込んでいた。
外側にも、内側にも消毒を促すような日常が
今までを「以前」と裁断した。
粗末な布も幾重にも重ねれば
鉄にも似たような圧の声になる。
その群れは白を極彩色に汚そうとする。
以前と呼ばれた頃、以後と呼ばれた場所
その中間。
あの時の興奮は異物だったようで
潔白の白に狂騒の針が刺さる。
浮かび上がる赤……血を流したものがあった。
アルコールスプレーによる
永遠の凪のにおいが布に染み込む。
今まで意識されなかったものが
汚れと認識されて
別の形に拭おうとする。
過去を見て
当時の流行りの模様を知れても
その質感までは伝えにくい
今を見れば自身が帯びていた熱すら
漂白するように明日へと流していく。
白が変容していく過程を
忘れたくないから
自分の心臓に縫いつける。
名前すら残せない私が
この時代に生きていたという名札だ。