評ですね。4月10日〜13日ご投稿分 雨音
「ペインレス」松本福広さん
松本さん、こんにちは。お待たせいたしました。
こちらの作品は、親知らずの抜歯というごく日常的な体験から出発しながら、「痛み」と「幸福」、そしてそれを取り巻く社会や科学の問題へと自然に視野を大きく広げていく構成が強い印象として残りました。淡々とした静かな導入から後半にかけて不穏さが増していく流れはとても秀逸で、読者を知らず知らず深い思考へ導いていきます。
「管理される痛み」と「管理されない痛み」の対比や、「幸福=痛くないこと」というシンプルな定義から科学や薬へと展開していく流れには説得力があります。確かに、痛みを管理するという技術の進歩は「できる限り苦痛を取り除く」という発想からスタートし、それはフィジカルな苦痛にフォーカスされていますが、結果的には痛くないことから生まれる精神的な幸福感というのは確かにあって、読みながら色々深く考えました。後半の「贋作の奇跡」「科学的な処理で生まれた呪い」といった表現からは、理知的な語りの中に静かな不安を滲ませている点が魅力的です。
全体として、個人的な体験から普遍的なテーマへと深く踏み込んでいく、思索性と余韻のある力強い作品だと感じました。佳作です。
あえて一点だけ挙げるなら、冒頭の語りの位置づけをわずかに調整することで、作品全体の広がりがより自然に伝わるかもしれません。もう少しだけ読者が理解しやすいところまで降りてくると、詩本編への導入として入り込みやすくなるように感じました。こちらは好みの範囲なので、ご参考までに。
余談ですが、私も最近抜歯をしました。それでより感情移入して拝見しましたが、松本さんらしい思考の展開がとても印象的でした。
「名探偵とドジな学者」月森うさこさん
月森さん、お待たせいたしました。
とても個性的で、楽しく読み進められる作品ですね。この作品は、「コーヒーが溶けてなくなる」「論文が盗まれる」といったちょっと不条理な出来事から始まり、それをラブラドールが解決していくというファンタジー小説のような軽やかな展開が印象的です。出来事自体はどこか非現実的でありつつも、語り口はあくまで淡々としていて、そのギャップが作品全体に独特のユーモアを生み出しています。
特に素敵なのは、ラブラドールの存在です。「不満そうに探しに行った」「しっぽを振ってお座り」といった描写で、頼もしくも愛らしいキャラクター像が自然に頭に浮かんできます。読者は安心してこの“謎解き”を見守り、その安心感が同時に後半へのワクワク感にもつながっています。
終盤で明かされる「学者が爆睡しており、論文は真っ白、カップは床に落ちていた」という夢オチにより、大げさな事件のように見えていたものが、実は身近な出来事に収束することで、じんわりとしたおかしみの余韻が生まれています。
一つだけアドバイスするとしたら、冒頭の「突然」が繰り返される部分に少し変化をつけることで、リズムにより豊かさが出るかもしれません。こちらは好みの範囲ですのでご参考までに。
なんと言っても頭の中で物語が動きだし、それがなんともユーモラスなことがこの作品の魅力です。そしてきっと月森さんご自身の魅力でもあるのかなと感じました。次回も楽しみにしています。
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急用があり、渡英中です。
3月から多忙で桜も気づけば散っていましたが、英国は今ちょうど桜が満開で、こちらで春を感じています。
次回の評は日本からお届けいたします。
季節の変わり目、皆様どうぞご自愛くださいね。