4/21〜4/23 ご投稿分の感想です。 紗野玲空
4/21〜4/23にご投稿いただいた作品の感想・評でございます。
素敵な詩をありがとうございました。
一所懸命、拝読させていただきました。
しかしながら、作者の意図を読み取れていない部分も多々あるかと存じます。
的外れな感想を述べてしまっているかも知れませんが、詩の味わい方の一つとして、お考えいただけたら幸いです。
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☆「向こう側」 aristotles200さま
aristotles200様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
冒頭、
1+1
+1
+1+1+1+1+1+...
という視覚的な数式から詩が始まりますね。
言葉ではなく数字を積み重ねることで詩が始まってゆく……その逆説的な出だしに、不思議な引力を感じました。
中盤の「昔話」の挿話が秀逸だと思います。
王様の命令によって550年間、1を足し続ける一族という設定は、おかしみを帯びながら、人間の営みの儚さや滑稽さをしみじみと映し出しています。
〈毎年、一度/王様のご子孫に報告する〉から続く淡々とした描写、そして〈お前も、父の跡を継ぐのだ〉という一言が、世代を超えた宿命の重さをさりげなく伝えています。
大げさに語らないからこそ生まれる、静かなおかしさと哀愁が印象的です。
後半、王様の独白へと転じると、詩の温度がにわかに上昇します。
〈無に至るのか/宇宙が爆発するのか/誰も理解らない〉という問いは、数学的な無限の先に広がる未知への畏怖そのものです。
そして究極の数をなお追い求める王様の姿に、知の限界に挑む人間の真摯さと、力業で何事も解決しようとする権力者の滑稽さ、その両方が重なって見えます。
無限という概念を哲学や数学の言葉で論じるのではなく、一族の物語という「人間の時間」を通して語ったところに、この詩の深みがあると思います。
「数字の向こう側」を知りたいという王様の願いは、そのまま人類の根源的な問いと愚かさに静かに接続されているように感じます。
無限という途方もない概念を、王家への「報告」や父から子への「継承」という人間的な営みの中に落とし込んだ構成の妙を感じました。
壮大なテーマがおかしみと哀愁を帯びて静かに着地しており、独特の余韻を残します。
完成度の高い一篇だと感じました。
御作、佳作とさせていただきます。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
アラブ、インドの民話に「チェス盤と小麦の話」があります。
チェスゲームの発明者が王様に褒美を求めた際に、チェス盤の1マス目に小麦を1粒、2マス目に2粒、3マス目に4粒……と倍々に置いていくと、最終的に世界中の小麦をはるかに超える量になる……逸話のようです。
「指数的な増大」や「無限の恐ろしさ」を語る際によく引用されるようですね。
本詩の場合は倍々ではなく「ひたすら1を足す」のですから、より愚直でのんびりとした無限感が漂い、そこにこの詩ならではのユーモアと哀愁があると思いました。
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☆「スロウダンス」 上原有栖さま
上原有栖様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
冒頭から、死という重いテーマが真正面から置かれます。
しかし、そこに気負いはなく、〈“サイエンス・フィクション”じゃないから〉という軽やかな一行が、読む者をふっと現実へ引き戻してくれます。
「令和」という言葉を使ったことで、遠い哲学的な話ではなく、今日を生きる私たちの問題なのだと、自然に感じられました。
〈刻まれた墓碑名もいつか掠れてしまうだろう〉という静かなイメージで、最初の連はそっと閉じられます。
第2連の〈何のために生まれて/何を成すため生きるのか〉は、誰もが一度は抱く問いですね。
答えを出すのではなく、「分からないまま終わるのは嫌だから探してみよう」と前を向く……。
その素直さが、とても好ましく映ります。
第3連……「ステップ・バイ・ステップ」が、この詩の核心と思われます。
他の人には小さく見える一歩でも、自分にとっては大きな一歩になる、という主張は、全ての読者に大きな励ましを与えることでしょう。
〈二つの踵で地面を鳴らして〉という行からは、ダンスの躍動感が体ごと伝わってきます。
詩自体も、生き生きと動き出す感じがしました。
〈前へ!前へ!前へ!〉の三連打は、自然と背筋が伸びるようです。
終わりに向かうにつれて、詩の速度や温度もゆっくりと落ち着いていきます。
スロウでいい、拙くてもいい、という言葉が、急かさない優しさで包んでくれます。
生きている限り歩いて踊り続ける、というシンプルな宣言が、静かな余韻を残しました。
重いテーマではありますが、前向きな考え方に貫かれた詩は、さわやかな読後感をもたらしてくれます。
口語と詩的言語のバランスも自然で、等身大の言葉で書かれているため読みやすく、普遍的で共感を得やすい佳作だと思いました。
細かいことですが、気になった点を少し申し上げますね。
冒頭の墓碑名のイメージと、終連のダンスの余韻が少し離れている印象を受けます。
どこかでそっと結びつけると、詩の輪がきれいに閉じるように思います。
『人生はダンスのようなもの』の引用は詩の流れを止めてしまっているような印象があります。
この比喩はすでに詩全体が体現していますので、あえて言語化しなくとも伝わるかと思います。
真摯に生と向き合った、誠実な眼差しが伝わってくる一篇でした。
御作、佳作半歩手前とさせていただきます。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
スロウダンス(Slow Dance)とは、恋人同士が寄り添ってゆっくり踊るペアダンスや、穏やかな曲に乗って流れるように舞うダンスを指すようです。
転じて、焦らず時間をかけて関係や愛情を育む様子にも使われるとか。
作品の主題は、前へ踏み出す一歩にあると思います。
題……私でしたら『ステップ・バイ・ステップ』とするかもしれません。
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☆「イリス」 ゆづはさま
ゆづは様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
〈今日は風が強い〉というごく日常的な一行から詩は始まります。
肩肘を張らない出だしが、かえって読者を詩の世界へ自然に引き込んでくれますね。
〈乾いてゆく洗濯物の/はためき〉という、どこにでもある午後の光景。
その片隅に、イリスが静かに咲いている……という導入の運びが、とても心地よいです。
第2連、〈白いシャツに風が宿る〉という一行が印象的です。
花と洗濯物という、一見かけ離れた二つのもの、白く清潔なものが「風」によってそっと結ばれているのが素敵です。
この感覚の細やかさに、詩人の眼差しの確かさを感じました。
黒豆を煮る……ゆづはさんらしさですね。
第3連の〈地を刺す 緑の刃〉は、イリスの葉の鋭さを鮮やかに捉えています。
そのあいだで〈白き冠がほどけてゆく〉という対比も美しく、力強さと儚さが一つの花の中に共存している様子が目に浮かびます。
第4連が、この詩の核心でしょう。
イリスが女神の名を持つ花であること、球根として土の底で冬を越すこと……その事実を踏まえながら、〈昏い土の底に眠る記憶を/密やかな 香りに変えて〉と展開するところに、深い詩的な想像力を感じました。
長い沈黙の時間が、香りという形で甦る。
その転換がとても美しいです。
そして〈いま 足元から/凛として空を仰ぐ〉という立ち姿。
土の記憶を携えたまま、まっすぐ空へ向かうイリスの姿が、静かな感動を呼びます。
終連、〈瞼を閉じても消えない/その純白〉という表現で、花の印象が視覚を超えて内側へ刻まれていく様子が伝わります。
〈まばゆい季節を/ひらいてゆく〉という結びは、春への讃歌として明るく、詩全体を柔らかく照らして閉じます。
日常の一場面から始まり、花の神話的な背景へと静かに深まっていく構成が巧みだと感じました。
「風」「白」「香り」といったイメージが詩全体を通して自然に響き合い、統一感があります。
言葉の選び方が丁寧で、押しつけがましさがなく、読後に清々しい余韻が残ります。
庭で実際に咲いた花を詠んだという背景も、詩に温かみと実感を添えています。
今年もイリスが咲いてくれたこと、それ自体が詩の喜びですね。
素敵な写真も添えていただきありがとうございました。
御作、佳作とさせていただきます。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
イリスは、もっとも高価な天然香料だそう。
ギリシア・ローマ時代から利用されてきたとか。
根をそのまま刻んで香料として使っていたのが始まりのようです。
日本には明治時代に香料採取を目的に輸入されたようですが、香料用に栽培された事例は不明。
香料の採取方法は、「生育した根茎を洗浄、剥皮、天日乾燥後、2~3年間貯蔵すると、収穫直後の青臭い馬鈴薯のような香りがイリス特有の強いスミレに似た香気に熟成される」そうです。
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☆「晴れやかにして下さい」 じじいじじいさま
じじいじじい様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
入学式の新入生の言葉がそのまま引用される形で詩は始まります。
〈私達は本日、、、、以上〉という省略の仕方が、式典の空気をユーモラスに、しかし少し冷めた目で切り取っていて、語り手の心境をさりげなく示しています。
日記や独白に近い文体で書かれていますね。
それがかえって、この詩の強みになっているように思います。
飾らない言葉だからこそ、十五歳の複雑な心のうちが、そのまま伝わってきます。
第一志望に敗れたまま入学式を迎えた悔しさ、喜ぶ両親への苛立ち、これから始まる三年間への不安……。
それらが整理されないまま、ぶつかり合いながら流れ出てくる様子に、読んでいてじんとするものがありました。
〈なんてひどい親だと私は感じている〉という言葉も、子どもらしい怒りでありながら、わかってほしいという切実さが滲んでいます。
「勝者と敗者の入り組んだ高校生活」という言葉には、鋭い観察眼も感じられました。
〈受験勉強だけではなく部活も恋もしてみたい〉という一行が、この詩の中でとても輝いています。
不安と悔しさに満ちた詩の中で、ここだけに十五歳の瑞々しい希望が顔を出していて、胸を打ちます。
最後の〈誰か私の精神状態を晴れやかにして下さい/お願いだから〉。
詩の作法としてどうこうではなく、この叫びの正直さに、心打たれました。
全体を通し、技巧よりも正直さを選んだ作品だと思います。
飾らない言葉で書かれているからこそ、語り手の感情はまっすぐ届きます。
詩としてさらに磨くとすれば、散文的な説明の部分を少し削ぎ落とし、感情の核心に近い言葉だけを残してみるのも一つの方法だと思います。
たとえば両親の描写や高校の偏差値の説明は、もう少し短くまとめると、悔しさや不安がより鮮明に浮かび上がるかもしれません。
御作、佳作半歩手前とさせていただきます。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
2行目の「受検戦争」は「受験戦争」
最後から3行目の「受験勉強勉強」は「受験勉強」ではないでしょうか……。
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☆「命と魂」 相野零次さま
相野零次様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
〈魂というものがあります〉という静かな一行から詩は始まります。
〈魂は誰に宿るのだろう/何に宿るのだろう〉という問いの連なりは、子どもが夜空を見上
げながらひとりごとを言うような、素朴な不思議さを漂わせています。
飾らない問いかけの積み重ねが、読者を詩の世界へ自然に誘ってくれます。
中盤で、希望と絶望を惑星に見立てた比喩が登場します。
宇宙をめぐる惑星のように、希望と絶望が命の周りを巡るという発想は、スケールが大きく、若々しい想像力を感じます。
スペースシャトルやUFO、スペースデブリといった言葉を詩の中に持ち込む大胆さも、この詩ならではの個性ですね。
〈私達一人一人が星であり、宇宙そのものです〉という一行が、この詩の核心でしょうか。
希望や絶望に輝いたりくすんだりしながら、それでも一つの星として存在しているという眼差しは、温かく、力強いです。
最後の〈僕の若き悩みよ/あの輝きの一部となって帰ってこい!/そして僕の愛するあの子のところへ届きますように!〉という結びには、思わず顔がほころびました。
全体を通して、宇宙という大きなイメージを軸に据えた発想の豊かさが本詩の一番の魅力だと思います。
しかし、宇宙のイメージが次々と登場する分、少し散らかった印象も受けます。
惑星、シャトル、UFO、デブリ、流星、オーロラ……と言葉を重ねるよりも、いくつかに絞って一つ一つを丁寧に描くと、詩の輪郭がより鮮やかになるように思います。
壮大なスケールで混乱するので図式化してみました。
魂について考える
→悩みの中でひとつ見出す
→それが希望と絶望
希望と絶望→宇宙をめぐり
命(希望や絶望)の上にたどりつく
私たちが星であり宇宙である
希望と絶望により光景が変わる(絶景)
↑
どこからでも見ることができる
宇宙の一部である自分
他の宇宙の美しい様態を見る
←悩み(希望や絶望)などなんてことない
→輝きとなってあの子のところへ
場面により視点が変化していき、注意深く読まないと論点を見失いそうです。
結局、私たちは宇宙の一部であり、悩みなどは他の美しい宇宙の輝きとなり、愛する人に届いてほしいということでしょうか。
『命と魂』と題されていますが、問いがそこから始まってはいるものの、結論への考察の過程で、主となる問い自体が変化しているようです。
少なくとも「希望や絶望」の方に重点がおかれて紡がれていくような印象を受けました。
題を再考されてもよいかもしれません。
初めての方なので評は控えさせていただきますが、佳き作品でした。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
今回初めて担当させていただくにあたり、過去の相野さんの作品を拝読させていただきました。
長短、様々なタイプの詩をお書きになる方で、感嘆いたしました。
「孤独な季節に」「夢」…特に素敵な作品で印象に残っています。
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☆「ヒーローになれたら良かったのに」 三津山破依さま
三津山破依様、こんにちは。
御投稿ありがとうございます。
〈ある日、突然/気づいたんだ。/ボクは世界を救えないってこと。〉という出だしから、一気に引き込まれました。
友人への打ち明け話のような親しみやすい語り口は、〈うすうす、分かってた/ボクが微力だってことに。〉と、「気づき」をふっと軽く運び、読者をすっと詩の中へ引き込んでくれます。
この小さな自己開示が、語り手をとても身近な存在に感じさせてくれます。
訓練して、勉強して、席を譲って、空き缶を拾って、迷子の仔犬を捜す……。
できる範囲で精一杯やってきた、その積み重ねが丁寧に並べられます。
読んでいると、これはヒーローの修行ではなく、善良に生きようとしてきた日々そのものだと気づきます。
そして〈けれどね〉という一行。
この短い接続詞一つで、詩が大きく転換します。
何かドラマチックなことが起きるのかと思いきや……。
〈お母さんが呼んでいる。〉
〈おばあちゃんの/オムツを/替えなくちゃ。〉
この落差に、息をのみました。
世界を救う夢と、目の前の介護。
大げさな言葉は一切なく、ただ事実だけが静かに置かれています。
だからこそ、じんと胸に沁みます。
そして最後の二行。
〈今日はよいお天気。/洗濯ものがよく乾く。〉
この明るさが、この詩の真骨頂だと思いました。
嘆くわけでも、諦めるわけでもなく、ただ今日の洗濯物がよく乾くことを、静かに受け取っている。
その小さな肯定の中に、本当のヒーローの姿が見えるようです。
大きな夢から日常の介護へという転換を、〈けれどね〉一言で成し遂げる手腕は見事だと感じました。
最後の二行の明るさと静けさが、詩全体を深く照らしています。
説明せず、語りすぎず、事実だけで感動を生み出す力があります。
あえて申し上げるとすれば、〈ずっと訓練してた〉の「訓練」という言葉がやや唐突で、ヒーローごっこのような印象を与えます。
詩の後半の静けさとの温度差も考慮しつつ、ご一考いただけますと幸いです。
初めての方ですので、感想をのべさせていただきました。
ありがとうございました。
※閑話ひとつ
「ヒーロー」の語源は、古代ギリシャ語の「ヘーロース」(ἥρως)だそうです。
その語根をたどると「守る」「保護する」という意味に行き着くとか。
ヒーローになるために必要なのは世界を救う力ではなく、「守る」力……。
おばあちゃんのオムツを替える「ボク」は、その語源にとても近いところにいるように思えます。
薫風に洗濯物がはためいています。
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以上、6作品をご投稿いただき、誠にありがとうございました。
それぞれに、心を打つ素晴らしい作品でした。
拙い読みの中で、十分に 汲み取れていない部分も多かったかと存じます。
もし読み違いなどがございましたら、お知らせいただけましたら幸いです。
三浦さんのアフターアワーズ…ちょこっと真似させていただきました。
毎回、評をさせていただく度に大きな学びがあります。
閑話ひとつとして、調べたことを記させていただきました。
X内にMY DEAR園芸部発足☺️
育てている植物の情報交換を行っています。
緑燃える季節。
皆様の創作も豊かな緑につつまれますように、ご健康とご健筆を祈っております。