てんとう虫の子ども 朝霧綾め
てんとう虫の子どもを
私が育てる夢をみた
夢の中で
田舎の小道を歩いていると
一枚の大きな葉っぱに
私の顔ほどもある、
大きなてんとう虫が四ひき、ついているのをみつけた
重みで四匹がついている葉っぱの茎が
今にも折れそうにしだれていた
虫はあまり好きではないし
私はその光景から
遠ざかるように歩いて行った
もう一度そこを通ったとき
てんとう虫はやっぱりいた
けれども今度は葉っぱの下で
人間の赤ちゃんが泣いている
まだ立てない
その子は私が出会った
はじめての人間だった
突然、てんとう虫が一斉に震えた
「タノム、ソダテテ」
てんとう虫の言葉を理解すると
ああ、赤ちゃんはてんとう虫の産んだ子なのだと直感した
他にきいた人はいないか、あたりを見渡しても
誰もいない
とりあえずその子を抱き上げ
山奥の祖母の家まで歩いて行った
部屋に入るやいなや
祖母は言った
「育てなさい」
巫女がお告げするように重々しい口調だった
「何をあげたらいいのかわからないの」
私が言い訳すると
すりおろしたりんごを葉っぱにのせて持ってきた
赤ちゃんはそれを手づかみで器用に食べた
「頑張って」
私は行きと同じように
その子を抱っこして帰っていった
どうしててんとう虫の子どもが
人間になってしまったのだろう
けれどその子は
りんごしか食べないこと以外
普通の赤ちゃんだった
そのうちてんとう虫のことなど忘れて
その子を育てていた
公園に連れて行ったり
新しい服を着せたりもした
その子は私にお母さんのように甘えた
私が育てているのだし
お母さんでもいいと思った
とにかくその子が可愛かった
……
私は夢からさめた
布団の上の腕には
よいしょ、と抱き上げたときの重みと
あたたかい体温の感覚が残っている
その子はもう二歳、
電車好きのやんちゃな男の子になっていた