本を読む 秋冬
いつもの
単行本を
手にして
家を出る
地下鉄の
ベンチで
付箋だらけ
赤線だらけの
物語を開く
目の前を
人が
行き来する方が
一人に
なれるのだ
何度読んでも
懐かしく
何度読んでも
新しい
隣りに
座った
少女が
紫のハンカチを
差し出す
僕が
思い描いた
主人公だ
この世に
現れた
のか
僕が
本の世界に
入り込んだ
のか
どちらなのか
分からないが
とにかく
涙が止まらない
いつも
ありがとう
ハンカチを
受け取ると
少女は
優しく笑んで
うっすらと
消えて行く
しかし
手にした
紫のハンカチは
消えない
僕が
残された世界は
どちらなのだろう