硝子の正義 松本福広
「正義なんて時代によって違う。」
「正義なんて人によって違う。」
透明で汚れを知らないロジックは
年齢を重ねるほどに
酷薄な響きに変わっていく。
不純物が少ない硝子は
光の屈折が均一になり
像をまっすぐ映すという。
映したものが
君の眼球を通して
まっすぐのまま映るのか。
1人を殺せば犯罪者だが
100万人◾️すと英雄になる──。
歴史に焼き直しされてきた
言葉の透明度を誰もが有り難がる。
映してはならないものがあって
そこだけを都合よく隠す
硝子の屈折率は恣意的な数字だ。
その1人とは誰で、
その100万人とは
誰のことなのだろう?
硝子越しの距離を飛び越えて
己が瞳のレンズで見た上で
判断されるといいだろう。
その1人が敵で
その100万人が君の生活を支える
名前も知らない誰かでも
同じ答えになるのだろうか。
硝子の汚れの理由までは
日常にあり過ぎて
理由を問うことさえ忘れる。
その1人は
ふと濡れた硝子になぞってしまう
名前の人かもしれない。
友人であり、恋人であり、家族であり
あなただったかもしれない。
汚れた硝子があれば割って
新しいものに替えるだけの時代
たった1人も
100万人も
記号にされることで
擦り硝子の向こうに
顔が見えなくなった人たちだ。
割れた硝子に映る姿を
美しいと言った
たった今の瞳は
何を映しての
言葉だったのだろう。
※◾️は掲示板の使用禁止文字のため伏字になっています。