夜道を歩けば煙に巻かれる 佐々木 礫
懐かしい夜の住宅街、
そこから明るい方へと向かい、
駅の近くの通りの端を、
思考と足をあそばせて行く。
思わず弾んだ両足を、
わざと少しまた弾ませて、
ご機嫌のよい人になる。
もう日はとおく彼方へ沈み、
飲み歩く人も少なく、
憂いた空気の人が往く。
私は煙草を取り出して、
重いタールを深く吸い、
夜空の星をかすませて、
街灯の明かりに照らされて、
あらわになった薄い煙のその先に、
過去の執着を見つけたものの、
風になびいて消えてゆくのみ。
歩きに歩き、知らぬ校舎の片隅に、
電気の明かりが一つ漏れていて、
小さく、きゃっきゃ、と聞いた気がした。
それはいつぞやの声なりや?
私は愉しく思い、通り過ぎ、
柔い寝床へと向かっている。
ああ。私を取り巻く煙のにおいは、
まだ、懐かしくはないものだ。
老いとは遠いところにいて、
なお青々としてはいない。
今宵も眠りにつくのみだ。
夜道のような夢をみるために。