夜の女王 月森うさこ
酔っ払いが迷子になる森の中
小生もその一人で、酒が抜けてきた頃
突然、小さな遊女屋が現れた
黒く光る瓦屋根が少し不気味で
赤い暖簾がゆらゆらと引き込まれていく
ここは夜の女王と呼ばれる娘が
奥の座敷で一晩限りの夜を過ごす
一人の客を待ち続けているそうだ
長い廊下を案内されながら
どこかから花の香りが広がる
さあさあ 湯あみをしましょう
されるがままに湯をかけられる
さあさあ 伽羅油で髪を整えましょう
綺麗に畳んであった褌を占締め直すなおす
さあさあ 夜の女王が待つ奥の間へ
甘くうっとりする香りに誘われて
さあさあ こちらへどうぞ
一夜限りに時を過ごしておくんなし
さあさあ おしげりなんし
月がどんどん欠けていく二人の体は絡み合う
さあさあ このかんざしを外しておくんなんし
髪がまるで大輪の花がぱっと咲き雫が舞い上がる
目を奪われていたら 風が通りすぎた
先ほどまで部屋にいた夜の女王も
少し不気味だった遊女小屋も消えていた
右手に握られていたのは大輪の白い花と
甘い茉莉花の香りに酔いしれた
*夜の女王は一年に一度だけ咲かせ、翌朝にはしぼんでしまう白い巨大な花