RPG 松本福広
ロールプレイングゲームが昔から好きだった。
仲間と協力し、様々な苦難を超えて
悪逆非道な魔王を打ち倒す。
ふと立ち止まる。
魔王のいない世界で
英雄を英雄たらしめるものは
なんだろう?
暗転。
二人の仲間と共に、壁の前へ並ぶ。
経年劣化で黄ばみがかった壁に
規則正しく三つのボタンが並んでいた。
その先は見えない。
だけど、何があるかは知っている。
罪と罰の先端部だ。
隣の仲間と会話はない。
制度の終点に立つ我々の床は
義務と責任でできている。
転んだら立ち上がれない程に
硬く作られている。
プレイヤーとしてのモンスター狩り
プラスチックのボタンの感触が
馴染んでいく度に
レベルは慣れの数値化なのだと知る。
緩慢に繰り返す攻撃・攻撃・攻撃……
その作業を幾度も繰り返してきたのに
たった一つのボタンをたった一回押す。
それだけなのに全身が重い。
日常に溢れるプラスチックの材質が
異物に変わる。
ゲームシステムの彼らは
勇者・仲間・魔王として置かれて
物語が始まる。
彼らのことも
壁の向こうの相手も
資料以上のことは知らない。
電子の箱庭にいる彼らは
英雄になりたくて
生まれてきたのだろうか?
無機質な箱庭の中の
ボタンを押す役目は
生まれついての義務ではないが
それでも、誰かがしなくてはならない。
ここにないはずの声がうるさい。
その仕事を選んだのは、あなたでしょう?
そういう仕事だって知っていたんでしょう?
人に叩きつける言葉としては気持ちいい。
正しい側に立つ無自覚な誰かが
私に突きつける
人差し指はまっすぐ伸びる。
ゲームの選択肢は
場面も答えも限られるのに
人生は選択肢が多すぎる。
なのに、三つのボタンの前では
一つの行動しか許されなくなる。
物理的に見えなくなれば
押せるはずだと信じて
設計した先人たち。
先人たちは賢い。
壁の向こうの誰かには
一枚隔てた我々は見えない。
けれども、ボタンを押されるのは
知っているはずだ。
汚れ役を担うことで
誰かからは非難され、誰かからは労われる。
違う言葉が欲しかったはずなのに。
隣の仲間と一斉にボタンを押す──
メッセージウィンドウを早く消したいから
ボタンを連打する。
レベルが上がった効果音は無音だった。
「ユウシャは見過ごす術を覚えた。」
GAME OVERの画面の後は
タイトルロゴに戻る。
上司から休暇を言い渡され
予定がない連休を過ごす。