英雄の剥離 松本福広
『戦国時代』という言葉がある。
為政者の群雄割拠という視点で見れば、
その名称に相応しい。
視点を変える。数字で見る。
戦死者という数字をはめれば、
精悍で逞しい肌に、たくさんの傷を帯びる。
ある人はこう表現する。
『大量殺人時代』だと。
教科書を閉じる。
きっと彼(※1)の事は書かれていない。
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1945年8月6日──
世界史の骨に日付が刻まれた。
青空を見た男は、仲間に天気の話をする。
晴れ後、ゲルニカ。
ifがない歴史
英雄はその時代
その立場にいる人たちが
ifを根拠に誰かに与える称号だ。
懺悔を神様ではなく哲学者にする。
永遠に消えない後悔だと
透明なものと受け止められたのは
本人にとって満足だったのか
皮肉だったのか。
責めてくれ。讃えてくれ。
根付いた腫瘍を摘出しようとすれば
両面が表側のコイン(※2)が
出てきたかもしれない。
英雄は文脈の血で
言葉の定義を揺らす分岐点だ。
それならば
その真偽は誰が決めるのだろう?
肌にも層があると
初めてわかった時に
人は深層を機能の一つだと
割り切れたのだろうか?
原初の頃から
深みにあるものを
信仰するのは上手だったから。
本当に人体を知るためには
必要なのは教科書ではない。
解剖だ。
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俺の真向かいにいる男は英雄と呼ばれていた。
ツギハギだらけの英雄。
人工皮膚を着飾った群衆が
俺たち二人を指さす。
俺は皮膚を失い、脂肪が露出している
醜くて、見ていられない姿だ。
痛みに呻く様すら群衆には滑稽に映る。
なぁ どうして
そんなに英雄になりたいと
思ったんだい?
あんたも 俺も
表しかないイカサマコインだ。
バレなければイカサマじゃない。
騙し続ければマジック。
永遠に騙し続ければ
偽物も本当になる。
本当にそう思って
言葉を使っていたのかい?
実は、俺も欲しいものがある。
だけど、それすらも
下衆な感情だと見られたならば
どうやって、生きていこう?
騙すしかなかったんだ。
俺も あんたも。
さぁ、世界で一番嫌いだったモノを
せーので指し合おう。
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(ちょうど一人分の、絶叫の後 微弱な呼気)
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剥き出しの体に
道端に落ちていたガムの包み紙を
一枚だけ貼る。
皮膚が欲しい。
いや、皮膚を撫でてほしい。
※注釈
※1.クロード・イーザリー。広島原爆投下任務に関与したとされる人物。戦後、その罪責感を巡って語られた。
※2.人物の顔が彫り込まれている側が表(heads)と呼ばれている。