猫叉 上原有栖
夢のなかで
昔飼っていた猫が話しかけてきた
近くの神社でお参りするとき
最後のお辞儀で
おいでくださいと願い込めながら
首を右側へ
ぐいっと曲げて
そのまま
じぶんの後ろを覗くと
視線の先
ちょんと座った白い猫が
朱の鳥居の向こう側に見えるのだと
あさでも くれでも
はれでも あめでも
願いが通じれば見えるはず
やさしい声は続ける
白猫が現れるのは しるし
いいこと わるいこと
何かが起こるよ
懐かしい声はささやく
なみだが零れて
目を開けた
みゃあ
耳の奥に残っているのは
甘えたいときに鳴らす じゃれた声色
うまくやっているのだな
今度 お参りにいこう
願いは 再びおまえに逢うこと
老いた額にまだ
墨点(すみべに)を垂らしたような
模様は残っているかしら
歳を経た猫は
猫叉になると 言い伝えられている
みゃあ みゃあ
耳の奥に懐かしい声が
こだましている