消えた沈黙 石川ぼうず
ある朝
目が覚めると
世界は狭くなった
会社
海辺
深夜の遊園地
知らない国の路地裏
思い浮かべるだけで
どこへでも飛んでいける
僕は瞬間移動の技を身に付けたのだ
初めはただ楽しかった
どこに行くにも時間がかからず気楽だ
なんせ遅刻ギリギリまで寝ていられる
しかし 能力を使うことに慣れてくると
しだいに 待つことができなくなっていく
料理が運ばれてくる時間
返信を待つやり取り
長い長い信号待ち
苛立つ
五分の遅刻が
永遠みたいに思える
コンビニのレジ
動画の流れる速度
数秒でさえ
耐えられない
待つことが
馬鹿らしく思える
僕は待つことをやめ
どんどん効率を重視した
距離を消し
待ち時間を消し
面倒を消し
沈黙を消した
ある夜 恋人と
ゆっくり過ごしているとき
僕の意識とは別に
どこかへ飛ばされてしまった
静かすぎる空間
誰もいない
ただただ 真っ白な世界
そこで初めて気づく
僕はすごい能力を手に入れたが
結果 誰とも一緒にいられなくなっていた
狭くなっていたのは
僕の世界観だったようだ