デザイア 上原有栖
手でうなじをなぞった
そこに、痒みがあった
触れた肌が乾いている
髪の根元が固くなっている
少し力を込めて掻く
カリカリ カリカリ
皮膚の削れる音がする
痛みは無い
爪の先が赫く染まっていた
傷付けたか 瘡蓋の血だ
朱色に鼻を近付ける
ヘム鉄と皮脂が混じりあい
錆びた臭気がする
塞いでいた匂いと記憶が漏れ出す
幼いころ
頭を掻き毟って叱られた
その時に嗅いだのと同じだ
血が出るだろう 毛が抜けるだろう
傷が残るだろう 恥ずかしいだろう
親に叱られたけれど
止められなかった
「ソレハドウシテ?」
だって
気持ちよかった、から
もう一度
爪を立てて皮膚を掻いてみる
湿り気を帯びた皮膚から
固まった瘡蓋が剥がれる
甘い快感がよぎった
「キモチワルイ」
そうだね
きっと理解してもらえない
理解してもらえなくていい
自分は、気持ち良かったんだ
自身の身体を傷付けながら
どろりと湧き上がるそれは
流れる血のように真っ赤で
闇に溶け込むように真っ黒な
こころの奥底で
息を潜めて此方を見ている
欲望そのものだった