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スレッドNo.732

おはじきの波  秋さやか

夕暮れの
翳りから
ひぐらしが鳴き出して

やさしく
やさしく
じゆうな時間の
おしまいを告げていた

ほんとうはまだ
遊んでいたかったけれど
縁側にばら撒いた
おはじきをたぐり寄せる

指先にふれる
ひやりとしたざらつきが

記憶の果てで
懐かしかったのは

おはじきのなかに
海の欠片が
閉じ込められていたから

朝日に光る黄色いさざなみ
よく晴れた午後の青いさざなみ
夕日を映す赤いさざなみが

寄せては返す 
ひぐらしの声と重なって

両手から 
溢れそうなおはじきを

ひとつづつ
からっぽのジャム瓶のなかへ
こぼしていく

たのしい

くやしい

さみしい

おはじきの色の数だけ
生まれていた感情

カチカチと
ぶつかりあえば
波立って 混じりあって
またちがう色

いつか
大きな両手で
たやすく隠せるようになっても

いつか
見たこともない色の
感情を覚えても

ジャム瓶のなかに
大切にしまった
このおはじきを
失くさずにいられるだろうか

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