おはじきの波 秋さやか
夕暮れの
翳りから
ひぐらしが鳴き出して
やさしく
やさしく
じゆうな時間の
おしまいを告げていた
ほんとうはまだ
遊んでいたかったけれど
縁側にばら撒いた
おはじきをたぐり寄せる
指先にふれる
ひやりとしたざらつきが
記憶の果てで
懐かしかったのは
おはじきのなかに
海の欠片が
閉じ込められていたから
朝日に光る黄色いさざなみ
よく晴れた午後の青いさざなみ
夕日を映す赤いさざなみが
寄せては返す
ひぐらしの声と重なって
両手から
溢れそうなおはじきを
ひとつづつ
からっぽのジャム瓶のなかへ
こぼしていく
たのしい
くやしい
さみしい
おはじきの色の数だけ
生まれていた感情
カチカチと
ぶつかりあえば
波立って 混じりあって
またちがう色
いつか
大きな両手で
たやすく隠せるようになっても
いつか
見たこともない色の
感情を覚えても
ジャム瓶のなかに
大切にしまった
このおはじきを
失くさずにいられるだろうか