スイマー 上原有栖
潮の満ち干きのように等間隔で
向かいの信号機が点滅している
注意せよ もう渡ってはいけない
危険を知らせる合図を無視して
横断歩道を行き交う魚影たち
鉄の塊が走り回る大海原で
人波を掻き分けるのは簡単だ
誰もが泳ぐように滑るように
擦れ違うスイマー
無機質なアラームが歪な音を立てても
眉を顰める者は最早いない
たまに挙がる喚起の声は
喧騒の水泡にまみれて消えていった
背後でアラーム音が止まった
刹那
甲高いブレーキが響く
急ぐ一匹の魚が勢いそのままに泳ぎ出て
赤い飛沫が飛び散った
赤色灯と間延びしたサイレンが
遠くから交差点に集まってくる
一つの命が目の前で
揺らぎ溶けていくのを
魚たちは ただ見つめるだけだった