貝とイルカ 竹中ゆうすけ
小雪の香りが 豊かに泡立つ明け方に
借りてきた傘の上を
漂い 流れ
ポンポン跳ねれば のっぺらぼう
「それで?」 と問う貝が
湿った眉を 淑やかに拡げた
絡まる香りは ふくよかで
厳かに立つ 音の知らせが
海底まで 届く
「指先が よく 冷えるの」
華やかに飾られた耳たぶが
瞬時に
吹き曝しの柱に擦《こす》れて温《ぬく》まる
柔肌のイルカは
堅気な貝と仲良し
霙が輝きを増すごとに
永遠の響きが流転する
登頂まで あと もう少し!
「でも、歩いて………ここまで?」
ふいに 驚き イルカは訊いた
貝は照れながら頷く
クネクネ道を 並び
はしゃいで泳いだ
そのあとで
貝とイルカは
珊瑚の周りに注ぐ木洩れ陽を 寄り添い合って眺めた
日が暮れると
潮の流れに舞う雫の影が
照り映える
一滴の息が漏れ
照らされた耳たぶに
返し忘れていた息が吹き込んだ
汗には 空《くう》を千切るように 塩味《えんみ》が染みて
ぼんやりと閃爍《せんしゃく》する切れ味となり
二者を惑わす
頭をヨシヨシすること(!)
それが唯一の蝶番
明けても まだ 帰らずにいる
錆びた金網に 意識が向くころ
一面 ──── 凪
大らかな商いして
こしょこしょ
ナイショばなし
「また遊びにおいで?」
泳ぎ疲れて
蒼い鼎の上に休むとき
巴の時化が咲き始める
カランコロん からンこロン
微笑みながら触れ合う背中
それらは いっそう ニコやかに