ペンギン 野村感満載
どれだけ腕を振ったって
少しも浮けやしない
隣のカモメは
あんなにすんなり飛べるのに
何故?
なんて考える頭はない
DNAに刻み込まれた
習性とやらに突き動かされ
毎日を過ごすけれど
今日もがむしゃらに
大きな氷の上で
腕を振る
自身の茶色い毛を毟り始めた日も
隣で友人が喰われた日も
守った卵がぐちゃぐちゃになった日も
あの氷の端っこで
腕を振る
いつも、小さな頭で考えるんだ
空を飛ぶってどんな感じ?
分からないまま
こんなに大きくなってしまった
鋭い嘴を
魚に突き刺すだけ
濡れた身体の乾燥を
待ちぼうけるだけ
吹雪の酷い日
目を閉じ
いつもみたいに足を張って
風が止むのを待っていた
そして晴れた日に
もう一度腕をバタバタと振ってみたら
突然の浮遊感を感じて
心から喜んだ
遂にやった
努力が実った
そう僕は
嬉しかったんだ。
なのにどうして
泣いているんだろう
僕は
その水がどこから来たかなんて
分かりはしない
ただ凄く
胸に痛みを感じる
上に昇ると確信していた身体は
何故だか下に落ちていく
そしてようやく
足元の大きな氷が
割れて沈んだことに気づいた
いいや、もうハナから気づいてたさ。
鯱が赤い目を向け
ずっとこちらを睨んでいる
僕と同じ色をした
大きな体が
落下に応じて近づいて。
また僕は腕を振ってみた
だけど近づくのは空じゃなく
水面と
天敵
瞬間、抱いていた胸の痛みは消え
代わりに全身の痛みへと変わった
真っ青な海に
僕の紅が混ざる
あの天敵が
ニヒルな笑顔をこちらに向けたことを
視界の端で確認すると
次第に意識が薄れていく
空高く飛べたと思ったのに。
そうして最期に
かつて同じ夢を抱き
同じように喰われて死んだ友人を頭に浮かべ
人生の幕を閉じるのであった。